【感想】きんとうかフルコンプ ネタバレなし
普段あまりBLゲームに手を付けないので、他作品と比較して良作かどうか?と聞かれても分かりません。ですが、感想を書かずにはいられませんでした。
あまり文章が上手い方ではない上に長文ですが、購入を迷っている方の参考になれば嬉しいです。
『きんとうか』
こちらのゲーム、共通ルートがほとんど全部公開されているんですよね。YouTubeで。公式からゲームのプレイムービーが公開されることはよくありますが、長い。
という事で、気になっている方には是非そちらを見て欲しいです。全体的な雰囲気や、自分に合うかどうかも分かると思いますので。
夏から秋にかけてのお話なのですが、季節感半端ないのであと数ヶ月待ってみてもいいかもしれません。ただし、彼岸花が咲く頃までにはプレイし終えてくださいね!
しっとりとした、夏の爽やかさと秋のもの悲しさが上手く同居している雰囲気が凄く良かったです。
湿度の高い日本の夏、海に囲まれた瀬戸内海の島で、入道雲と半透明の空に見守られて始まります。
瀬戸内の夏空は、他の地方の夏空とは色が違うらしいです。海からの水蒸気によって薄い膜に覆われている状態だから、綺麗な空色とは違うんだよ、と。
それを聞いて、まさにきんとうかだね!?と湧きました。
空の霧が晴れる頃にエンディングが来る。夢が覚めるような、また新たに始まるような。ここまで調べて書いているのかはわかりませんが、あまりにぴったりだったのでびっくりしました。
《最初にひとこと》
夏の終わりに、またやりたくなる。瀬戸内海の島に、ふらっと旅に出たくなる。
大切な人に、大好きだよと伝えたくなる。ご先祖様に、私は元気ですと言いに行きたくなる。
今この瞬間、生きている人。昔この場所で、生きていた人。鏡を見れば、そこにいる自分。
目に映る景色も、移りゆく季節も、耳を通り過ぎる音も、肌で感じる温度も、全てのものが愛おしく感じるようになる。
涙が出るくらい、自分は幸せなのだと気付くことが出来る。そんな作品でした。
《シナリオ》
主人公の鈴村颯太が那珂ノ島へ来たことによって始まりますが、彼が誰を選ぶかによって島の人間模様が視点を変えて展開します。細かい伏線が全体に散らばっており、2周目をプレイするとビビります。
過去と向き合い、今を伝って未来へと進む。主人公含む、キャラクターの変化が見ものですね。俯いていた彼らが顔を上げて、笑顔で歩いてゆく姿にはため息が出ました。みんな愛おしい。
特に各キャラルートの佳境では、音楽も手伝って涙なしでは進められませんでした。人と人との絆や愛情が大好きな方なら、尚更胸に響くものがあるのではないでしょうか。
独特な言い回しや詩的な文章、儚くて心に染みる音楽もきんとうかの世界をより美しく彩っています。文章もキャラクターも結構クセがありますが、言動や心情に共感できる点も多かったです。
会話のテンポも良く、声優さんの演技も素晴らしくて。思わず笑ってしまう所が結構ありました。サブキャラもいい味出してますよ。
すれ違ったまま、気付かないまま、複雑に絡まってしまった人間関係を解いてゆく。そしていつの間にか、心に染み渡っている愛おしさ。
ヒューマンドラマ×ボーイズラブ、と言ったところでしょうか。ヒューマンドラマ要素が大きいので、BL重視の方はご注意下さい。
これBLである必要性あるの??と言う方もいるかもしれませんが、この作品はBLだからこそより心に訴えかけてくる。
友情Ver.もやってみたいですが、恋愛だからこそ染みるお話でした。特にあるキャラは、泣きながら小冊子を読みました。
誰から攻略しても大丈夫ですが、個人的には宗定→愁→恭→司の順をお勧めしたいです。他キャラルートのネタバレを考慮して、ストーリーもストンと落ちてくる感じが一番いいかな、と。
《キャラクター》
・鈴村 颯太
無邪気な子どもが宝物を無くして、そのまま大人になってしまった人。ふわふわと地に足つかず、なのに妙に現実的で色々と諦めていて、そのくせ甘い夢に焦がれている。
彼の心情、独特のモノローグをどう受け取るかで、この作品の見方が変わるかもしれません。詩的な表現なので、くどく感じてしまう人もいるかと思います。
結構イラっとすることが多かったのですが、フルコンプしてみると「こうなって然りだな」と思いました。「良かったね、幸せにね」そう言えるような主人公でした。
・逢己 宗定
子どもらしくない子どもが大人になってしまった人。恐ろしいくらいの堅物と真面目具合。神聖過ぎて話しかけられないオーラ半端ない。
来るよ、絶対来るよ!!と思ってたら本当に来た。期待を裏切らない展開をありがとうございました。
純粋無垢なんで、可愛いんですよね。可愛いのに男らしい、そりゃモテますよ。本人は颯太しか見えていないのでしようが。
誠実で優しくて包容力のある大人の男性。彼の隣では、もはや颯太が女性に見えました。
・渡利 愁
手のひらの上で他人を平然と転がしている、子どもに蓋をして大人になった人。欲しいものを諦めて、それを受け入れてしまった彼。
あえて空気を読まずに平気で放送禁止用語を連発する、あえてマイペースな毒舌と冗談。ブラックからホワイトまでのジョークを網羅しています。笑いのツボにクリーンヒット。この人、一番の自由人なんじゃないかな。
余裕のあった彼が、だんだん余裕ぶってきて、最終的に余裕がなくなる。意地悪で優しいクール系の仮面が崩れるのは、颯太のひたむきな愛のおかげですね。
隠しているようで隠していない、周囲に対する愛情表現が好きです。
・渡利 恭
すれ違ったままの想いに後ろ髪を引かれながら、大人に守られて生きる、大人になったばかりの男の子。
この子は分かりやすいですね。公式のキャラ紹介のイメージそのまんまでした。実直で等身大の二十歳。何気にお育ちが良い現代の学生、という感じです。
初々しくて純粋な彼を精神的にリードする颯太が良かったです。彼、唯一の年下だしね。顔を赤くして慌てたりするところなんて、もうね。期待を裏切らなかった。
一見粗暴にも見えますが、思慮深く愛情深く、一生懸命な姿を見て応援したくなりました。
・司
記憶喪失で不安な気持ちを吹き飛ばすように、明るくてあたたかい、太陽のような人。自分のことより他人のことを優先して、自然と他人が欲している言葉を言う。
颯太と彼の恋は、まさに「夏」そのものです。無邪気に笑い合い、ちょっとしたことで喧嘩して、このふたりが一番性別の壁を意識しなかったかな。
同い年だからこそ、目線も同じで気遣いもなく、甘えて甘えられて、自然に接することが出来たのでしょうか。
どんな時でも笑顔を絶やさず、向日葵のように太陽に向く彼が、とても眩しかったです。
・サブキャラ
空気にならず、誰もが物語を支えるキャラクターとして役割を担っています。意外な相互関係にびっくりしたり、涙したりしました。
こちらのルートで伏線張って、あちらのルートで回収する。この作品、全体的にコレなんですがね。バラ撒き方と回収の仕方がまた上手い。
メインキャラだけじゃなく、みんなに愛着が湧くのがまた良いです。島に行きたい、モデルはどこだ……?
《恋愛・R18》
恋愛要素についてですが、この作品はどのキャラもノーマルなんですね。なので、男同士ならではの葛藤は……そこまでなかった!!もうちょっと頑張って欲しかったです、せっかくノーマルなのに。
自然に恋愛関係になるのですが、言動や心情の描写がもう少し分かりやすい方が良かったです。恋愛以外の描写と差がついてしまっていて勿体なかった。
大人の恋人関係独特の、穏やかで少し余裕のある感じは良かったです。それでいてもどかしい、手を伸ばしたいけどどうしよう?と臆病になるこの感じが年齢相応でした。
それぞれに合ったもので、「ああ、このキャラならこういった恋愛をするんだろうな」と期待通りの展開に、「ああ、そうそう!」と言いたくなりました。慣れているキャラと、慣れていないキャラの落差がまた良かったです。
R18部分は前述の通り、BLの比較対照が非常に少ないです。ですが、文章に不自然なものはなかったんじゃないかな?と。
颯太はノーマルのくせに受け臭しかしない、と何処かで見たのですが。うん、すんごい喘いでた。びっくりした。
攻め方は各キャラに合ったものだったので、BL慣れしてない私でもすんなり受け入れられました。萌えたと言うかこちらまで盛り上がるよ!と言うくらい良かった。
愛のあるSEXって素晴らしいですね。回数は各キャラ数回、自然な流れでした。
《世界観・絵・音楽》
世界観なのですが、現代日本に和風ファンタジーの要素を上手く練り込んでいます。と言っても、和風ファンタジーは糸のように絡まっているので、ガッツリではないです。
神社や神様、日本古来の古典的なものに重きを置いています。かなり専門的な用語や造語がたくさん出てくるので、細部まで設定に拘ったその姿勢に敬礼。
絵が残念だと言われていますが、確かにバラつきがあります。R18スチルについては、比べる対照がほぼないのでなんとも言えません。
ですが、サブ合わせて各キャラの性格や言動に合ったビジュアルでした。ライターさんが合わせたのかもしれませんが。
ここ!と言う所に歌が入ってくる演出も素晴らしかったです。どのルートでも、来ると分かっていても泣いてしまいました。
フルコンプした後にじっくり全曲を聴くと、歌詞と作品がリンクしていてまた泣けます。オープニングから挿入歌、エンディングまでがひとつのストーリーのようになっているのにも感動しました。
これはサントラのエンドレスリピート必須。歌に対する、いいくぼさんと都志見さんのコメントも良かったです。
《システム》
次の選択肢までジャンプ(未読もですが)機能があったので、楽でした。ボリュームがすごかったので。
ボイスセーブ(コレクション)とエンドリストが欲しかったですかね。他は特に不便に感じることはありませんでした。
《最後にひとこと》
この作品の一番良いところは、人の生死や喜怒哀楽を軽く描いていないところですね。
何かを失うことが、どれだけ苦しいことか。何かを得ることが、どれだけ尊いことか。
颯太はずっと「また今度」で、祖母である花さんに会いに行くことをしなかった。
後悔という言葉は、もう二度と戻らないもののためにある。なんとなく分かっていても、私たちはそれを後回しにしてしまっています。
失う前に、自分に出来ることをしよう。きっと最善を尽くしても後悔はするんだろうけど、それでもやろう。
それは生死に関わることだけでなく、日常に転がっているたくさんのものに言えることなんじゃないかな。
過去がどれだけ辛くても、今がどれだけ報われなくても、それを全部未来へ持っていこう。そうすれば、いつかそれは綺麗な宝石になって、宝箱の中身が増えてゆくだろうから。
人それぞれ、受け取るメッセージは違います。個人的に、この作品は「色々と諦めてしまった大人」にこそやって欲しいな、と思いました。